ノルウェー第2の都市ベルゲンに、このほどアメリカの航空宇宙企業ベータ・テクノロジーズが開発した電気飛行機「アリア」が着陸しました。これは、航空業界にとって画期的な出来事です。アリアは、バッテリーのみで160キロメートルを55分という短時間で飛行するという偉業を達成しました。
この飛行は、沿岸都市スタヴァンゲルとベルゲン間の貨物輸送ルートを模擬したもので、今後数ヶ月間は、ノルウェーの低排出量航空を目指したテスト飛行が続けられます。操縦を担当したパイロット、ジェレミー・デガーン氏は、「車で移動すると4時間半かかりますが、飛行時間はわずか52分でした」と語っています。ノルウェー空港運営会社アヴィノールのカリアンヌ・ヘランド・ストランド氏は、「国際的なテスト場としてのノルウェーにとって重要なマイルストーンです」と述べています。
アリアは、アイルランドでのデビューを皮切りに、ファーンボロー航空ショーやパリ航空ショーにも参加し、ドイツやデンマークにも立ち寄るなど、ヨーロッパを駆け巡るテスト飛行を既に終えています。一回の充電で最大400キロメートル飛行可能で、電気自動車と同様に40分足らずで充電が完了します。この固定翼機は、最大5人乗りの旅客機や医療輸送機としても構成可能で、今年6月にはニューヨークのJFK空港に旅客を乗せて初の電気飛行デモを行いました。
アマゾンを投資家に、UPSを顧客に持つベータ・テクノロジーズは、今年中にアメリカでの型式証明取得を目指しています。同社のショーン・ホール最高収益責任者(元戦闘機パイロット)は、「航空宇宙における次の大きなブレークスルーは、電気推進によって実現すると確信しています。運用コストを大幅に削減でき、環境面からもカーボンニュートラルに貢献できます」と力強く語っています。
しかし、航空業界全体の脱炭素化への道は険しく、課題も多いようです。アリアは、電気推進技術を探求する多くの企業の中でも最も進んだプロジェクトの一つですが、欧州当局から完全な型式証明を取得しているのは、スロベニア製のピピストレル社「ベリス・エレクトロ」のみです。同機は航続距離が短く訓練用途に限定されており、旅客輸送には適していません。さらに、エアバス社も電気航空機「シティエアバス」の開発を一時停止するなど、電気航空分野では多くの失敗事例も存在します。
電気飛行における最大の制約は航続距離です。リチウムイオン電池は、ジェット燃料に比べてエネルギー密度が低く、大型で重量があるため、航続距離を伸ばすにはバッテリー技術の革新が不可欠です。そのため、ハイブリッド技術を採用する企業も出てきています。スウェーデンのスタートアップ企業ハート・エアロスペースは、30人乗りのハイブリッド電気飛行機「X1」を開発しており、アメリカに拠点を移してテスト飛行を進めています。同機は通常航路では電気のみで離陸から着陸まで飛行可能で、長距離飛行や緊急時のためにタービンエンジンを搭載しています。
電気航空機は、技術的な課題の他にも、商業的な成功、安全性などを証明する必要があり、未来はまだ不透明です。持続可能な航空燃料(SAF)や水素燃料システムなども開発されていますが、いずれも実用化には時間がかかります。脱炭素化への道は長く険しいですが、アリアの成功は、その未来を明るく照らす一筋の光と言えるでしょう。



