アメリカと中国の首脳会談を目前に控え、長年懸案となってきたTikTok問題が、思わぬ方向へと動き出している。今週、両国政府高官は枠組み合意に到達。報道によると、TikTokのアメリカ事業がアメリカ企業グループに売却される可能性が高いという。
専門家からは、この合意が米中貿易交渉における「稀な突破口」と評する声も上がっている。しかし、その内容はいまだ不透明な点が多い。アメリカユーザー向けには、アメリカ独自のTikTokアプリが提供されるとの報道もある。買収企業グループには、オラクル、アンドリーセン・ホロウィッツ、シルバーレイクといったテクノロジー大手や投資会社が含まれるとされるが、各社からのコメントは得られていない。
争点の中心はTikTokのアルゴリズム、いわば「秘伝のタレ」だ。ユーザーの嗜好や行動に基づいてコンテンツを推奨するこのアルゴリズムは、TikTokの爆発的な人気と魅力の源泉である。他の企業も同様の機能開発に挑んでいるものの、元SnapやViberの幹部が匿名でBBCに語ったように、「技術を最初に開発した企業が優位に立つ」のが現状だ。
TikTokの中国親会社であるバイトダンスは、このアルゴリズムの譲渡を拒否。中国政府も同社を支持していた。しかし、予想外の展開となった。中国のサイバーセキュリティ当局は、バイトダンスがアルゴリズムなどの知的財産権をアメリカ企業にライセンス供与することを容認する姿勢を示したのだ。ただし、完全な譲渡ではない。
これは、中国の従来の強硬姿勢からの大きな転換だ。シンガポール国立大学のコンピューティング専門家、コキル・ジャイドカ博士によると、アメリカ版TikTokはアルゴリズムの機能を制限した「簡略版」で動作する可能性があるという。それでも、ユーザーエンゲージメント、モデレーション、広告ターゲティングといったTikTokの収益性を支える仕組みの一端は明らかになるだろう。
バイトダンスにとって、最も価値のある資産をまるごと渡すよりも、簡略版でアプリを稼働させた方がビジネスとして合理的だ。ただし、コンテンツの多様性などが低下する可能性もあるとジャイドカ博士は指摘する。アメリカ財務省のスコット・ベッセント長官は、ユーザーエクスペリエンスは変わらないものの、「中国の特色」は維持されると述べている。
しかし、「中国の特色」こそが問題だ。トランプ前大統領を含むアメリカ政府関係者は、TikTokのデータアクセスやアメリカユーザーへの影響について長年懸念を表明してきた。この懸念から、バイデン前大統領が署名した法律により、TikTokはアメリカ事業の運営権を譲渡するか、アメリカでのサービス停止に直面する事態となっていた。トランプ前大統領はその後、TikTokが若年層の支持獲得に貢献したとして、見解を変えている。
だが、合意が成立するためには、アメリカ議会による承認と、懸念の払拭が必要だ。既に、両党から反対の声が上がっている。共和党議員のジョン・ムールナー議員は、合意内容が中国政府の影響力を許容する可能性があると懸念を表明している。
このような大型案件は、通常、完了までに数ヶ月から数年を要する。アメリカ版TikTokと中国版TikTokとの連携方法、バイトダンスの取締役会による承認といった課題も残る。中国政府が既に合意を承認しているとはいえ、様々な複雑な要素が絡み合っているのだ。トランプ大統領の予測不可能な行動も、新たな問題を生む可能性がある。
トランプ大統領がTikTok合意に熱心なのは、自らの政権にとって大きな勝利となるからだ。世界人口の7人に1人がTikTokを利用しており、巨大なマーケットプレイスでもある。元ソーシャルメディア幹部は、TikTokがアメリカ以外の企業が開発した唯一の成功例であることに価値があると指摘している。
一方、中国にとってのメリットは必ずしも明確ではない。しかし、ライセンス契約により、バイトダンスはアルゴリズムを秘密裏に維持できる。また、TikTokはアメリカ市場にとどまれる。更に、この合意は、他の中国企業がライセンスを通じてアメリカ市場に参入するための「TikTokモデル」として機能する可能性がある。中国は、この合意を自国の技術を自らの条件で輸出する成功事例として宣伝できるだろう。
このTikTok合意は、米中間の貿易交渉において中国に時間を稼がせる効果があるかもしれない。高関税は両国に打撃を与える。レアアースなど、中国が事実上独占している資源に関する輸出規制も存在する。結局、TikTok問題における突破口は、中国にとって進歩と言えるだろう。アメリカは合意を得られるかもしれないが、トランプ大統領が意図したような「クーデター」にはならない可能性が高い。
ジャイドカ博士は、「この合意は理論上は機能するかもしれないが、実際には常に不確実性の影がつきまとうだろう」と述べている。
Source: China is calling a TikTok deal a win. What's in it for them?



